■3.11の巨大津波にも耐えた鎮魂の磐座
釣石(つりいし) は、名の通り、釣り下げられた
ような姿で崖から突きでている。周囲14メートル
の巨岩で、男石ともよばれている。横から見ると、
まるで亀の頭のようだ。男石とよばれる由縁だろ
うか。
その下に横たわる長さ8メートル、横4.5メート
ルの舟形石を女石とし、陰陽の神として崇拝され
ている。釣石は、平成23年の東日本大震災をふ
くめ、度重なる巨大地震にも耐えたことから、
「落ちそうで落ちない石」として合格祈願の名所
となり、シーズンには受験生でにぎわう。
釣石神社を「百座」にいれるべきか迷った。
「3.11」の被害があまりにも大きいからだ。
現地を訪ね、被害状況を知るほど、その想いは大
きくなった。神社は、北上川の河口から、3キロ
さかのぼった追浜地区に鎮座する。旧村社で、祭
神はアメノコヤネ(天児屋命)とされている。津
波は10メートル前後の高さで北上川を遡上した
という。そうするうちに、「津波が神社
で止まった」という調査結果を知った。海洋調査
をしている熊谷 航氏が、福島県沿岸部の神社配置
を調べた結果、82社のうち68社、実に8割強の神
社が浸水線のうえに並んだというのだ。海中に消
えた神社は14社、すべて近年に建てられた神社で
あり、古来の神社はすべて無傷だったという事実
に驚いた。
(『磐座百選』より一部抜粋)
■清少納言もとりあげた霊験あらたかな神社
清少納言の『枕草子』に次のような一文がある。
社(やしろ)は布留(ふる)の社。生田(いくた)の社。
旅御社 。花ふちの社。杉の社は、しるしやあらんと
をかし。
霊験があると思われる五つの社をあげた一文だ。
布留とは 石上(いそのかみ)神宮、生田は生田
神社。旅の御社とは神が巡幸するときの仮宮である
御旅所(おたびしょ 、杉とは大神(おおかみわ)
神社のことだが、そうした由緒ある神社のなかに
「花ふちの社」が出てくる。鼻節 (はなぶし )
神社のことだ。『延喜式』では、宮城郡四座の筆頭・
名神大社に列格されている。
清少納言がなぜ、鼻節神社を知っていたのかわ
からない。しかも、石上神宮や大神神社と並べて
いるところがおもしろい。おそらく彼女は、神社
の神格について興味がなかったのだろう。固有の
神社ではない旅の御社がはいっていることからも、
その曖昧さが伝わってくる。村井順の『清少納
言』によると、「程よい信仰、情趣本位の信仰、
そういうものをよしとしていた」とある。これも
才女たる由縁か。なんともクールな信仰心だと思
う。
(『磐座百選』より一部抜粋)